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『熊野ヒッチハイク・ガイド』

山田カイル『熊野ヒッチハイク・ガイド』条件の演劇祭vol.1-kabuki(2023)

(All photos by 江戸川カエル)

「条件の演劇祭 Vol.1-Kabuki」参加作品

車載カメラで地図アプリのストリートビュー用の写真を撮影して回るドライバーが、「自分は一度死んでいる」と語る一人のヒッチハイカーと出会う。互いに気付かないが、二人はかつてヒッチハイカーの死によって分かたれた恋人同士である。永遠にも思える道行の最中、二人は次第に、なぜか何年も目的地に到達できないヒッチハイクの旅の孤独や困難、パートナーロスの苦しみなど、互いの思いを吐露し合う。

「小栗判官」では、恋人・照手姫の親族に暗殺され、その後餓鬼阿弥として現世に戻った小栗は、人間の姿に戻るため、いわばヒッチハイクで熊野の秘湯を目指す。道中、郷里を離れた照手姫が偶然この餓鬼阿弥と出会い、小栗と知らぬまま岐阜から大津まで車を引く。

小栗判官の物語は、説経節をはじめ、媒体を変えて様々に翻案され直し続けてきた。また、小栗というキャラクター自体、東海道周辺の様々な超人説話の集合体である。本作では、物語のバリエーションが無限に生まれ続け、語られ直されてきたこと自体を、永遠に目的地に辿り着くことのできないヒッチハイクの旅に重ねることで、個人を巡るナラティブが無限に拡散し続ける現代社会の不安を描いた。

作・演出:山田カイル
出演:大谷莉々、塗塀一海
制作:谷陽歩
舞台監督:塩澤剛史(合同会社士言堂)
照明:中山愛弓(LICHT-ER)
音響プラン:tomo takashima
音響オペレーション:渡辺ミリ